調べて最初に気づいたこと──940篇のうち、語られるのは20篇だけ
このサイトを作るにあたって、最初にノストラダムスの予言を端から端まで調べたとき、正直驚いた。詩は約940篇あるのに、「的中した」として語られるのはせいぜい20〜30篇だ。残りの900篇以上は、いったいどこへ消えたのか。答えは単純で、誰も覚えていないのである。
外れた予言は語られない。当たった予言だけが語り継がれる。この非対称性を知ったとき、「ああ、そういう仕組みになっていたのか」と少し拍子抜けした。予言の「的中率」は、測り方そのものに歪みが組み込まれている。本稿ではこの「予言が当たって見える仕組み」を、3つの認知バイアス──確証バイアス・バーナム効果・コールド・リーディングを通して一つずつ解剖していく。
確証バイアス──「当たり」だけを覚える脳の癖
確証バイアスとは、自分が信じたい仮説に都合の良い情報だけを集め、反する情報を無視する人間の認知傾向だ。予言の評価において、この働きはとくに強く現れる。
9.11米国同時多発テロが起きた直後、ノストラダムスの詩篇の中から「ニューヨーク」「巨大な建物」「飛行機」を想起させる詩が次々と「発見」された。中には実際には存在しない捏造詩までインターネットで広まった。なぜ事件前に「予言」として認識されていなかったのか──事件が起きるまでは、何にでも当てはめられる詩の一節に過ぎなかったからだ。事件が起きてはじめて、その詩は「予言」のフォルダに移される。
同じことが新型コロナウイルスの流行(2020年)でも起きた。ノストラダムス、エドガー・ケイシー、アビギャ・アナンド──多くの予言者が「2020年に疫病が来る」と語っていたとされる。だが冷静に見れば、近代以降ほぼすべての年に、誰かが「今年、世界規模の災害が来る」と予言してきた。当たった年だけ、その予言者は「的中させた人」になる。これは予言者の能力ではなく、私たち受け手の確証バイアスが生み出す現象だ。
バーナム効果──「誰にでも当てはまる」を「私のことだ」と感じる仕組み
1948年、心理学者バートラム・フォアラーは学生たちに「個別の性格分析」と称して全員に同一の文章を渡す実験を行った。「あなたには大きな潜在能力があるが、まだ十分に活かしていない」「他人からは自信家に見えるが、内心は不安を抱えている」──そんな曖昧な記述だった。学生たちは「自分のことを驚くほど正確に言い当てている」と評価した。誰にでも当てはまる文章を「自分専用」と錯覚する現象──これがバーナム効果(フォアラー効果)だ。
予言は、このバーナム効果が最も働きやすい領域でもある。ノストラダムスの「西の大都市で大いなる炎が起きる」「老いた獅子が若い獅子に倒される」──こうした記述は、解釈の幅が広すぎて、ほぼ何にでも当てはめられる。ロンドン大火にも、東京大空襲にも、9.11にも、東日本大震災にも当てはまる。「当たる予言ほど曖昧であり、具体的すぎる予言は外れる」というのは皮肉な逆説ではなく、構造そのものなのだ。
これは現代の年次予言にも当てはまる。「2026年、世界に大きな変化が訪れる」「政治的な転換が起きる」「自然災害に注意」──こうした表現を読むと、頭の中で勝手に「具体的な何か」と結びつけてしまう癖を、私たちは持っている。読み手の解釈力が、予言の的中率を勝手に押し上げているのだ。
コールド・リーディング──「視えている」ように見せる技法
テレビの霊能力番組や占いの現場では、「コールド・リーディング」と呼ばれる技法が使われる。相手の年齢・服装・話し方・表情から情報を読み取り、「亡くなったお父さんが伝えたいことがあります」「Jで始まる名前の人物に心当たりはありませんか」と確率の高い当て推量を投げかけ、相手の反応で軌道修正していく技法だ。
「Jで始まる名前」は日本ではあまり機能しないが、英語圏ではJohn・James・Jacob・Jennifer・Joseph などで人口の20%以上をカバーする。日本でも「川」「田」「藤」など姓に含まれる漢字を投げると、聞き手の家系に1人は該当する。「あなたの過去に大きな悲しみがありましたね」「最近、人間関係で迷っていますね」──こうした問いかけは、相手の年齢が30歳を超えていればほぼ全員に該当する。
霊能者の全員がコールド・リーディングを意図的に使っているわけではないだろう。だが、技法として体系化されたコールド・リーディングと、霊視・透視・霊能の実践が外側から見て区別できないという事実は、予言を評価するうえで無視できない。「視えている」ように見せる技法と、本当に「視えている」現象を、私たちは確実には見分けられない。
「ジーン・ディクソン効果」という皮肉な名前
JFKの暗殺を予言したとされるジーン・ディクソンの話は、調べれば調べるほど複雑な気持ちになった。実際には予言は特定人物を指しておらず、選挙直前にディクソン自身が「ニクソンが勝つ」と撤回していた。しかも20世紀のアメリカ大統領は4人に1人が在任中に死んでいるので、統計的に特別珍しい話でもない。
「当たった予言だけが記憶に残り、外れた予言は忘れられる。これがすべての予言者の評判を作る仕組みだ。」— ジョン・アレン・パウロス(数学者)
それでもJFKの暗殺後、ディクソンは「世紀の予言者」として名声を得た。これを「ジーン・ディクソン効果」と呼ぶが、個人的にはこの名前が皮肉で面白いと思っている。予言者への批判ではなく、私たち受け手の認知の歪みに名前が付いているのだ。彼女が「外した」予言は記憶から消え、たまたま「当たった」一件だけが彼女の評判を作る──評価の主体は予言者ではなく、私たちの脳の側にある。
それでも「外れ」と切り捨てきれないもの──事前記録という別軸
ここまで書いておいて言うのもなんだが、私はすべての予言を「認知バイアスの産物」と一刀両断するつもりはない。理由は単純で、「事前記録が確認できる予言」がいくつか存在するからだ。
たとえば漫画家・たつき諒は1999年刊行の『私が見た未来』の表紙に「大災害は2011年3月」と明記していた。出版日は事前に確定しており、後付けの解釈ではない。米陸軍リモートビューイング部隊出身のジョー・マクモニーグルは、1998年の英語著書で「2010〜2012年頃に日本の東北沖でM9規模の地震が発生する」と記述していた。これも刊行日が確認できる事前記録だ。これらの予言は、「事後に都合よく当てはめた」という確証バイアスの説明だけでは片付かない。詳しくは特集「南海トラフ大地震を予言した人々」で取り上げている。
確証バイアスは「事後解釈」を膨らませるが、「事前記録のある予言」は別軸の評価対象になる。私が予言サイトを始めた本当の動機はここにある──事後解釈の罠を知り尽くした上で、それでも「事前記録のある予言」を一件ずつ正直に評価する場所を作りたかったのだ。
結び──バイアスを知った上で記録する
3つのバイアス──確証バイアス・バーナム効果・コールド・リーディング──を頭に入れた上で改めて予言と向き合うと、見え方が変わるはずだ。すべてを信じる必要はない。すべてを否定する必要もない。バイアスを知った上で、それでも残る違和感や驚きを、丁寧に記録していく。それが予言を扱う唯一誠実な姿勢だと、今は思っている。
このサイトに「信頼性スコア」と「的中精度」の二軸評価を設けたのも、同じ動機からだ。当たった・外れたを同じ重さで記録すること。神話化を防ぐこと。詳しい評価基準は「予言の信頼性をどう測るか」に書いている。事前記録のあるものは別軸で見ること、しかし期待しすぎないこと──このバランスを取りながら、これからも一件ずつ記録を続けていく。
