経歴・人物

伝承——洞窟生まれの魔女

マザーシップトンの実像は伝説と混交しており、史料的に確認できる情報は非常に限られている。伝承によれば、アーサ・シップトンは1488年にイングランド北部ヨークシャーのナレスバラ付近の洞窟(The Dropping Well近く)で生まれたとされる。父親は不明で「悪魔との間の子」とも語られ、母親アガサは出産後まもなく修道院に送られた。

彼女は生まれつき非常に醜い容貌(背が低く鼻が鉤鼻、目が異様に大きかったとされる)ゆえに村人から嫌われ、魔女として恐れられた。成長後、大工のトビー・シップトンと結婚し「マザーシップトン」の名で呼ばれるようになった。

帰せられる予言の内容

彼女に帰せられる予言詩には技術文明の到来を示唆するとされるものが含まれる。代表的なフレーズとしては「馬なき馬車が火と煙で走る(蒸気機関)」「鉄の船が浮かぶ(鉄製船舶)」「空を飛ぶ鉄の鳥(航空機)」「人々が金を包んで持ち歩く(紙幣)」などがある。また枢機卿ウォルジーに関する予言(「ヨークを訪れる前に死ぬ」)は当時の政治状況と符合するとされ、1521年頃に口頭で語られたという記録がある。

史料問題——印刷物の初出は1641年

最大の問題は史料の信頼性である。現存する最初の印刷物は1641年に出版されたものだが、この版にある予言はごくわずかである。現在よく知られる「馬なき馬車」「鉄の船」などの技術文明予言は、1862年にチャールズ・ヒントン(Charles Hindley)が出版した版に初めて登場するものであり、ヒントン自身が後に「自分が創作した」と告白している。従って現代に流布する「マザーシップトンの予言」の核心部分は19世紀の偽作とされている。彼女が実在したかどうか自体も確実な史料がなく、現代の歴史家は慎重な見方をとる。なお「マザーシップトンの洞窟」はナレスバラの観光名所として今も公開されている。

主な予言・功績

  • 馬なき馬車の予言(1641年刊)
  • ペッチング泉(石化の泉)伝説

参考文献・出典

  • Joanne Barnes「Mother Shipton: Witch or Prophet?」
  • Arnold Armstrong-Davison研究