「新しいノストラダムス」の彗星予言
2026年8月28日、英国のニュースサイトUNILADが、ある予言を取り上げた。2026年末までに彗星が地球に衝突し、「全面的な破壊」をもたらす。予言したのはパキスタン出身の宗教指導者、リアズ・アフマド・ゴーハル・シャヒ。記事は彼を「新しいノストラダムス」と呼んでいた。
この呼び名には見覚えがある。本サイトが前回検証したハミルトン=パーカーも、同じように呼ばれていた。英国メディアでは、期日の近い予言を語る人物に、ほぼ決まってこの肩書きが付く。
予言そのものは新しくない。元になっているのは2000年に出た著書で、2025年9月にも、インドのニュースサイトWIONが「携挙」予言が外れた直後に紹介している。終末予言がひとつ外れるたびに、次の候補としてこの予言が呼び戻されている。
期日の年末まで、残り3か月半。本記事では、この予言を支えている説明をひとつずつ確かめる。
ゴーハル・シャヒという人物
ゴーハル・シャヒは1941年、英領インド時代のラーワルピンディー近郊に生まれた。スーフィー(イスラム神秘主義)の指導者として1980年に団体を設立し、ウルドゥー語で精神世界に関する本を何冊も書いた。もっとも広く読まれたのが、2000年の著書『神の宗教(Deen-e-Ilahi)』である。英訳版『The Religion of God』は2012年に米国で出版された。
その教えは、パキスタンで激しい反発を招いた。信奉者たちは彼の顔が月や太陽に浮かび上がったと主張し、この主張は米国務省の2003年の人権報告書にも記録されている。本人は英国に渡り、パキスタンの裁判所は不在のまま冒涜罪で有罪とした。
そして2001年、彼はロンドンで消息を絶った。同じ年や2003年に亡くなったという説はあるが、いずれも確認されていない。後継の団体はいまもメサイア財団インターナショナル(MFI)としてロンドンを拠点に活動しており、彗星予言を広めているのもこの団体である。
本に「2026年」は書いてあるのか
まず、予言の中身を確かめる。英語版Wikipediaは、『神の宗教』の英訳版36ページを出典として、この予言を次のように紹介している。
シャヒは、地球に向かう彗星によって、世界が2026年に終わると予言している。彗星は「全面的な破壊」の原因になるとしつつ、「人類を威嚇するために、神は小規模な破壊を計画している」とも述べている。
ここで引っかかる点がある。団体自身の説明では、2026年という年が「科学者の見立て」として書かれているのだ。
団体の代表ユーナス・アルゴハールのサイトには、2015年10月13日付の「2026年──終末の時」と題するページがある。そこにはこうある。
「科学者たちは、地球に向かって突進している巨大な彗星のことをよく知っている。彼らによれば、それは2026年ごろに衝突する」
彗星が来るという話はシャヒの予言だが、「2026年」という年の根拠は、科学者が計算したことになっている。本サイトは原書の該当ページを確認できておらず、年の記載が原書にあるかどうかは断定できない。ただ、少なくとも団体の説明を読む限り、この予言の日付は「科学者も知っている」という前提の上に置かれている。
ならば、確かめるべきことははっきりしている。その彗星は、本当に観測されているのか。
「科学者も知っている彗星」を探す
地球に近づく小惑星や彗星は、NASAをはじめとする世界の観測網が監視している。NASAの地球近傍天体研究センター(CNEOS)は、見つかった天体の軌道を計算し、衝突の可能性がある天体を一覧で公開している。
その記録に、2026年に地球への衝突が予測されている天体は見当たらない。NASAによれば、文明に打撃を与えうる直径1km以上の地球近傍小惑星は推定の95%がすでに見つかっており、そのいずれも今後100年のあいだに地球へ衝突するおそれはない。
観測網がどう動くかは、最近の実例がある。2025年2月、小惑星「2024 YR4」が2032年に地球へ衝突する確率が一時3.1%まで上がり、世界中で報じられた。だが追加の観測で軌道が絞り込まれると確率はすぐに下がり、地球への衝突は事実上否定された。
ここから分かることは二つある。衝突のおそれがある天体が見つかれば、確率つきで公表され、大きなニュースになること。そして2026年の彗星について、そうした公表は一度もないことだ。
「科学者も知っている」はずの彗星は、科学者の記録のどこにも見当たらない。
予言が書かれた2000年という時代
では、なぜ2000年に「彗星が地球に衝突する」という予言が書かれたのか。当時をさかのぼると手がかりが見えてくる。1990年代は、天体衝突が繰り返しニュースになった10年だった。
1992年 スイフト・タットル彗星が再発見され、2126年に地球へ衝突する可能性が報じられる(のちに計算が見直され否定)
1994年 シューメーカー・レヴィ第9彗星が木星に衝突。世界中の望遠鏡がその瞬間を捉えた
1998年3月 小惑星「1997 XF11」が2028年に地球へ衝突する可能性が発表され、翌日に撤回される
1998年 映画『ディープ・インパクト』『アルマゲドン』が相次いで公開される
ちなみに1992年にスイフト・タットル彗星を再発見したのは、日本の彗星捜索家、木内鶴彦である。本サイトでは、臨死体験で未来を見たと語る予言者としても収録している人物だ。
2000年の時点で、「彗星が地球にぶつかる」という筋書きは、すでに誰もが知っている物語だった。シャヒの予言は、その時代の空気の中で書かれている。本サイトが2027年の台湾有事で見てきたのと同じ構図である。現実の話題が先にあり、予言がそれに引き寄せられる。
外れない仕組み
この予言には、もうひとつ注意すべき点がある。外れても、外れたことにならない仕組みが組み込まれているのだ。
ひとつは、先に引いた「神は小規模な破壊を計画している」という一文である。全面的な破壊が起きなくても、年末までにどこかで隕石が落ちれば、それを「小規模な破壊」と呼ぶことができる。小さな隕石の落下は、毎年のように世界のどこかで起きている。
もうひとつ、団体は「世界が平和になれば衝突は避けられる」とも説明している。衝突が起きなかった場合、それは予言が外れたのではなく、回避されたのだと言える。
起きても当たり、起きなくても当たり。どちらに転んでも否定されない予言は、検証の対象として最も扱いにくい。本サイトが検証できるのは、そのうち日付と規模がはっきりした部分——「2026年末までに、全面的な破壊をもたらす彗星が衝突する」という一点だけである。
本サイトの見立て
整理する。
予言の出どころ 2000年の著書。英語版Wikipediaは原書を出典に「2026年」と紹介するが、団体自身は2026年を「科学者の見立て」として書いている。
「科学者も知っている彗星」 NASAの監視記録に、2026年に地球への衝突が予測されている天体は見当たらない。
生まれた時代 1990年代は天体衝突が繰り返し報じられた時代。予言はその筋書きと重なる。
予言の構造 「小規模な破壊」と「平和による回避」で、外れを外れにしない逃げ道がある。
ただし、留保もつけておく。観測網は万能ではない。太陽系の外縁から来る長周期彗星は、見つかってから接近までの時間が短いことがある。2013年1月に見つかったサイディング・スプリング彗星は、約1年9か月後の2014年10月、火星からわずか約14万kmのところを通過した。
だがこの例は、同時に逆のことも示している。その彗星は、1年9か月前に見つかっていた。年末までに地球へ衝突するほどの大きな彗星なら、いまごろは太陽系の内側に入り、世界中の望遠鏡に捉えられている可能性が極めて高い。
本サイトは期日の2026年12月31日を過ぎたら、この記事と2026年の予言一覧に結果を書き加える。
「新しいノストラダムス」という呼び名は、期日が来るたびに別の誰かへ引き継がれていく。確かめるべきなのは肩書きではなく、その予言が何を根拠に、いつを指しているのかである。