「イギリス最強の予言者」と呼ばれる人物
YouTubeの都市伝説系の動画で、しばしば「イギリス最強の予言者」「新しいノストラダムス」として紹介される人物がいる。クレイグ・ハミルトン=パーカー。1954年生まれのイギリスの霊能者で、妻のジェーンとともに霊能者向けのサイトを運営している。
彼の知名度を支えているのは、毎年の年末にYouTubeで公開する翌年の「世界予言」である。そして紹介されるときには、必ずと言っていいほど同じ実績が並ぶ。Brexitを当てた。トランプ当選を当てた。COVIDを当てた。ウクライナ侵攻を当てた。
本サイトは彼の予言を収録してきた。今回、改めて記録を並べ直したところ、ひとつ問題が見つかった。本サイトのデータにも、彼の当たった予言ばかりが入っていたのである。本記事では、その偏りを直しながら、成績表を外れも含めて作り直す。
語られる的中を、まず並べる
紹介のたびに挙げられる的中は、次の5件である。
2016年 英国がEU離脱を選ぶ(Brexit)
2016年 トランプが米大統領選に勝利する
2020年 中国から致死的な新型ウイルスが世界に広がる
2022年 ロシアがウクライナに侵攻する
2026年 イランの指導部と核施設への標的型空爆
並べると確かに印象は強い。どれも世界史に残る出来事で、しかも年を当てている。
だが、ひとつずつ中身を確かめると、話は少し変わってくる。
的中の中身を、一件ずつ確かめる
Brexit。国民投票で離脱が選ばれることは当てた。一方で、英国が実際にEUを離れる時期については数年早く予言していたことが、英HuffPost(2017年11月13日)で指摘されている。
トランプの当選。同じ記事によれば、共和党の予備選の段階ではジェブ・ブッシュが勝つと予言していた。候補が絞られる前の予言は外れていたことになる。本サイトはこの予言の判定を「成就」から「部分的」に改めた。
COVID。予言を含む動画は2019年末の公開で、武漢で最初の症例が報告された時期とほぼ重なる。事前の予言だったのか、報道を受けたものだったのか、線引きが難しい。
ウクライナ侵攻。2021年末の時点で、ロシア軍が国境に集結していることは広く報道されていた。
イランへの空爆。「2026年3月」と予言し、実際の攻撃は2月28日だった。時期の一致は高い。ただし当時、イランとイスラエルの緊張はすでに頂点にあり、多くの報道機関が攻撃の可能性を論じていた。
5件に共通するのは、当時すでに専門家や報道が盛んに議論していた出来事だという点である。当てたことは事実だが、誰も予想していなかったことを当てたわけではない。
語られない外れ
では、彼が外した予言はどうか。紹介の場ではほとんど出てこないが、記録はある。
❌ 2020年 トランプが再選される(実際はバイデンが勝利)
❌ 2020年 バイデンが民主党予備選から撤退する(実際は指名を獲得して当選)
❌ 2025年 ハリー王子とメーガン妃が離婚する(2024年10月の予言)
❌ 2026年初頭 チャールズ国王が死去する
❌ 2026年春 AIバブルが崩壊し、暗号通貨が最大70%暴落する
❌ 2026年8月 日本北部が有毒ガス雲に覆われる
2020年の二つは豪紙The Australian(2020年12月30日)が、ハリー王子夫妻の件は英語版Wikipediaが、外れた予言として記録している。
正直に書いておくと、このうち上の3件は、本サイトのデータに入っていなかった。当たった予言は熱心に集め、外れた予言は拾っていなかった。本記事の公開にあわせて追加した。本サイトが確証バイアスの記事で扱った「当たった例だけを数える」偏りを、記録する側がやっていたことになる。
有毒ガス雲の予言については、期日の1か月前に別の記事で検証し、期日の8月12日に何も起きなかったことを記録している。
繰り返される予言
外れた予言には、もうひとつ特徴がある。形を変えて戻ってくるのだ。
懐疑的な立場から霊能者の予言を検証しているサイトBadPsychicsは、2025年12月30日の記事で、彼の2026年の予言を分析している。それによると、ハリー王子夫妻や王室の健康問題をめぐる予言は、2025年に外れたものの時期をずらし、演出を加えて再登場しているという。
2025年に離婚すると言い、しなかった。2026年には王室に大きな変化があると言う。外れた予言は取り消されるのではなく、期日を先に送って続いていく。
同じ記事は、書き方の曖昧さにも触れている。たとえば「4か国が関わる戦争」という予言は、どの国を指すのかがはっきりしない。どの組み合わせで戦争が起きても、あとから当てはめることができる。
毎年大量の予言を出し、当たったものは見出しになり、外れたものは語られずに次の年へ持ち越される。「最強の予言者」という評判は、この仕組みの上に成り立っている。
2026年の成績
最後に、今年の成績を確かめる。2026年に期日が来た予言は4件ある。
⭕ イランへの空爆(2月28日。予言は「3月」)
❌ チャールズ国王の死去(「2月頃」)
❌ AIバブル崩壊と暗号通貨の暴落(「春」)
❌ 日本北部の有毒ガス雲(「8月12日前後」)
4件のうち当たったのは1件。そしてその1件は、世界中の報道が可能性を論じていた出来事だった。
これは本サイトがアビギャ・アナンドの予言を検証したときと同じ形である。語られる実績は的中ばかりだが、期日を切った予言を並べると、当たりは少ない。
本サイトの見立て
整理する。
語られる的中 5件。いずれも当時すでに広く議論されていた出来事。Brexitは離脱時期がずれ、トランプは予備選で別の候補を予言していた。
語られない外れ 2020年のトランプ再選・バイデン撤退、2025年の王室離婚、2026年の3件。
2026年の成績 期日の来た4件で当たりは1件。
次に期日が来る大きな予言は、2027年の台湾有事である。これも、米軍高官がすでに「2027年」という年を挙げて警戒を促してきた話題であり、2027年の予言一覧で整理している。当たるかどうかにかかわらず、そこには彼より前に語った人たちがいる。
予言者の実力を知りたければ、紹介されている的中ではなく、期日を切った予言を外れも含めて全部並べるしかない。本サイトはこれからも、期日が来るたびに結果を書き加える。そして今回のように、自分たちの記録の偏りに気づいたときは、それも直していく。
「最強」という呼び名は、外れを数えない人が付けたものである。