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「中国のノストラダムス」と呼ばれる高校教師
ジャン・シュエチン(江学勤)は1976年、中国・広東省に生まれた。6歳で家族とカナダに移り、トロントで育ち、米イェール大学で英文学を学んだ。2000年代から北京で教育者として働き、ここ数年は北京の私立高校で歴史と哲学を教えている。
2023年、授業の記録のために始めたYouTubeチャンネル「Predictive History(予測的歴史)」が、彼を世界的な有名人にした。歴史のパターンとゲーム理論から未来を読むという講義で、登録者は約280万人にのぼる。英語圏のメディアは彼を「中国のノストラダムス」と呼ぶ。
チャンネルの着想元として彼が挙げているのが、SF作家アイザック・アシモフの『ファウンデーション ―銀河帝国興亡史1―』である。作中には、人類の大きな流れを数学で予測する「心理歴史学」という架空の学問が登場する。個人の行動は読めなくても、膨大な人間の集団なら先が読める——ジャンの「予測的歴史」は、この発想を現実の世界に持ち込もうとしたものだ。彼の講義の前提を知るには、まずこの小説を読むのが早い。
なお、本人は「プロフェッサー(教授)」と紹介されることが多いが、大学の教授ではない。彼が教えているのは高校である。
名を上げた「イランの罠」
彼の名を広めたのは、2024年5月29日に公開された講義「イランの罠(Geo-Strategy #8: The Iran Trap)」である。ここで彼は三つのことを予測した。
① トランプが2024年の大統領選に勝つ
② 米国はイランとの戦争に踏み込む
③ 米国はその戦争に負ける
①は2024年11月に当たった。②も、2025年6月の米軍によるイラン核施設への攻撃を経て、2026年2月28日に米国とイスラエルがイランへの攻撃を始めたことで現実になった。③は、2026年9月の時点で戦争が続いており、まだ答えが出ていない。
ただ、本サイトが以前の記事で書いたとおり、①は当時トランプ優勢と見る分析が少なくなかった。②も、イランをめぐる緊張は何年も前から議論されていた。当てたことは事実だが、誰も予想していなかったことを当てたわけではない。これはハミルトン=パーカーの的中にも共通する特徴である。
「的中率77%」はどう計算されているか
ジャンの予言には、ファンが運営する追跡サイトがある。本人とは無関係の個人のサイトで、彼の発言を414件集め、「的中率77%」と掲げている。
中身を見ると、数字の意味が変わってくる。
集めた予言 414件
結果が出て採点したもの 22件(当たり17件、外れ5件)
まだ結果が出ていないもの 307件
検証できないもの 61件
77%は、22件のうち17件である。414件全体から見れば、採点されたのは約5%にすぎない。残りの大半は期日が先か、期日がないか、検証のしようがない予言だ。的中率を語るには、母数が小さすぎる。
2026年の発言を、4つに分ける
では、2026年に彼が語った予言は、どういう性質のものか。本サイトがポッドキャストの書き起こしで確認できた発言を並べると、次の4種類に分かれた。
A 語った時点で、すでに決まっていたもの
「12月から徴兵への参加は自動になる」(2026年5月)——18〜25歳男性の選抜徴兵登録を12月から自動化する法律は、2025年12月にすでに成立していた。登録の自動化は、徴兵そのものとは別である。
B 条件つきのもの
「トランプが3期目を確保したら、連邦軍がニューヨークを包囲する」「もし次の9.11が起きるなら、金融インフラへの攻撃になる」(2026年9月)——前提が起きなければ、外れることがない。
C 期限が遠いか、ないもの
「日本と中国の戦争は、今後50年のうちに避けられない」「メッシは10年以内にアルゼンチン大統領になる」「NATOはオデーサで崩壊する(5〜10年)」——判定できるのは何年も先になる。
D 期日が近く、判定できるもの
「4月にトランプが中国を国賓訪問する」(1月)、「4月までに州兵が全米の主要都市に展開される」(3月)など。
ここで分かるのは、検証にかけられるのはDだけだということだ。Aはすでに答えが出ている話で、Bは前提しだい、Cは期日が遠すぎる。彼の予言が「外れない」印象を与えるのは、A〜Cが多いからでもある。
期日が来た予言の成績
本サイトが出典を確認でき、すでに期日が来た予言を並べる。
⭕ 2024年の大統領選でトランプが勝つ(2024年5月の講義)
⭕ 米国がイランとの戦争に踏み込む(同上)
△ 2026年4月にトランプが中国を国賓訪問する(2026年1月)——実際の訪問は5月13〜15日。1か月ずれた。
❌ 4月までに州兵が全米の主要都市に展開される(2026年3月20日、タッカー・カールソンの番組)——4月時点で州兵が残っていたのはワシントン、メンフィス、ニューオーリンズなどで、ロサンゼルス、ポートランド、シカゴからは1月に撤収していた。
4件で、当たり2、部分的1、外れ1。数としては悪くない。ただ、当たった2件はいずれも当時から議論されていた出来事で、部分的な1件の訪中も計画は前年から報じられていた。
同じタッカー・カールソンの番組では、「米国は最終的に地上部隊を送る」「海兵隊がイランのハールク島を押さえる可能性がある」とも語っている。2026年9月時点で、米軍の地上部隊はイラン本土に入っていない。ただ「最終的に」「可能性がある」という言い方なので、まだ外れとは言えない。
本サイトのデータも直した
今回、本サイトに以前から入っていたジャンの予言も見直した。「2030年前後の第二次アメリカ革命」「ドルは2030年代までに基軸通貨でなくなる」などの記録に、出典の確かめられない英語の引用文が付いていた。
前回のマクモニーグルの記事で見つけたのと同じ問題である。引用文は「原文未確認」に改め、2024年の「イランの罠」の記録は、講義の日付と三つの予測に合わせて書き直した。あわせて、2026年の発言から確認できたものを新たに加えている。
本サイトの見立て
整理する。
「イランの罠」 三つの予測のうち二つが当たった。いずれも当時から議論されていた出来事で、三つ目の「米国の敗北」はまだ答えが出ていない。
「的中率77%」 414件のうち採点済みの22件から出した数字。母数が小さい。
2026年の発言 すでに決まっていたこと、条件つきのこと、期限が遠いことが多く、検証できる予言は一部にとどまる。
期日が来た予言 4件で当たり2、部分的1、外れ1。
彼自身は、自分は予言者ではなく歴史のパターンを読んでいるだけだ、という立場をとっている。本サイトもそれに近い見方をしている。彼の講義が面白いのは、未来を言い当てるからではなく、今起きていることに一本の筋を通して見せるからだろう。
ただ、筋が通って見えることと、当たることは別である。本サイトはこれからも、期日の来た予言から順に結果を書き加えていく。次の判定は、年末のメキシコへの地上攻撃と米中の「大取引」、そして2027年のイランへの地上侵攻である。