何が予言されているのか
インドの占星術師アビギャ・アナンドは、2026年から2027年にかけて次のことが起きると述べている。
リーマンショック(2008年)を上回る規模の経済崩壊が起き、連動して金(ゴールド)の価格が現在の4倍に急騰する
地政学的な紛争、気候変動による農業の不振、AIバブルの崩壊、通貨への不信——それらが重なって世界の金融システムが機能不全に陥る、というシナリオである。
この予言が真剣に受け止められる理由は、ほぼひとつに集約される。彼はCOVID-19を当てた人物だ、という評判である。本記事はその評判を、本人の記録と突き合わせて検証する。
根拠とされる「COVIDの的中」
まず、その評判の中身を確かめる。
アナンドは2019年8月22日に公開したYouTube動画で、こう語っている。2020年に世界規模の危機が訪れる。数百万人を死に至らしめる疫病または世界大戦の可能性がある。2019年11月に異変が始まり、2020年3月から5月に状況が悪化する——。
実際には、2019年12月に武漢で最初の症例が報告され、2020年3月にWHOがパンデミックを宣言した。
公平に書いておく。この一件には本物の要素がある。公開日が確認できる。そして「11月に始まり3〜5月に悪化」というタイムラインは、実際の流行の経過とかなりよく一致している。
ただし、留保も同じくらい大きい。予言の文言は「疫病または世界大戦」という二択だった。2020年に何らかの大規模な危機が起きれば、どちらかに当てはめられる幅がある。
本人の予言を、全部並べてみる
ひとつの的中だけを見て評価するのは、本サイトのやり方ではない。本サイトに収録しているアナンドの予言を、期日が来たものから並べる。
⭕ 成就 2020年 世界的な疫病の流行
⭕ 成就 2024年1月 能登半島の大地震
⭕ 成就 2025年3月 ミャンマー・タイの大地震
❌ 外れ 2022年3月16日 株式市場の大暴落
当たった3件は、いずれも疫病と地震である。
そして外れた1件は、経済の予言だった。しかも日付まで指定していた。2022年3月16日に、株式市場の大暴落は起きていない。
ここで冒頭の予言に戻る。2026年の予言は、経済の予言である。同じ人物が、同じ分野で、期日を切って外している。「COVIDを当てた人だから」という評判が語られるとき、この一件はほとんど語られない。
当たりやすい分野と、当たりにくい分野
もう少し踏み込む。当たった3件と外れた1件は、そもそも性質が違う。
大きな地震は、世界のどこかで毎年のように起きる。アジアの地震帯に限っても、M7級は珍しくない。地域と年を指定するだけなら、的中する確率はもともと低くない。能登半島もミャンマーも痛ましい災害だったが、予言としては「起きうる場所」の範囲にある。
一方、「特定の日に市場が大暴落する」という予言は、ほぼ一点に賭けている。外れればはっきり外れる。そして実際に外れた。
つまり、この記録から読み取れるのは「アナンドは当たる」ではない。「外れにくい形の予言は当たり、外れやすい形の予言は外れた」ということだ。本サイトは確証バイアスの記事で、人が当たった例だけを数えてしまう癖を扱った。今回はその典型である。
「ひとつ当てた人の言葉は信じていい」のか
この予言をめぐる議論では、次のような論法がよく使われる。
COVIDを当てた人物の警告を、オカルトとして切り捨てていいのか
直感的には説得力がある。だが論理としては成り立っていない。ある分野での的中は、別の分野での的中を保証しない。 疫病の時期を当てたことは、金融危機の時期を当てる力の証明にはならない。ましてや同じ人物が、金融で実際に外している。
似た構図はほかにもある。バイエルンの霊視者アロイス・イールマイヤーは「お金は紙切れのようになる」と語ったとされ、第二次世界大戦を予言した人物として、その言葉も重く扱われがちである。
ただしイールマイヤーの予言は、口述の記録が戦後に出版されたものが多く、事後的に手が加わった可能性を排除できない。「お金が紙切れになる」という言葉も、1923年のドイツのハイパーインフレを体験した世代の記憶と重なる。未来の予言というより、過去の記憶の反響として読めてしまう。
「金価格4倍」は、確かめられる数字である
最後に、この予言の中でいちばん検証しやすい部分に触れておく。「金価格が現在の4倍になる」という数字である。
数字が明確なので、期日が来れば判定できる——と言いたいところだが、ひとつ問題がある。「現在」がいつなのかが書かれていない。
金価格は2024年から2025年にかけて、すでに大きく上昇している。予言が語られた時点を基準にするのか、それ以前を基準にするのかで、「4倍」が意味する水準はまったく変わる。基準点のない数字は、あとからいくらでも合わせられる。本サイトは判定の際、この点を明記する。
本サイトの見立て
整理する。
COVIDの的中 公開日が確認でき、タイムラインの一致もある。ただし「疫病または世界大戦」の二択で、幅がある。
本人の記録 当たったのは疫病と地震の3件。期日が来た唯一の経済予言(2022年3月16日の株式大暴落)は外れている。
2026年の予言 経済の予言であり、同分野での前例は外れ。「金価格4倍」は基準点が不明。
期日は2027年末である。本サイトはこの予言を記録しており、期日を過ぎた時点で判定を書き加える。
そのうえで、ひとつだけ書いておく。お金のことを、予言で決めないほうがいい。これは予言が外れるからではない。当たるかどうか分からないものを、生活の判断の土台に置くべきではないからだ。予言は記録し、検証し、面白がる対象であって、判断材料ではない。